1.開発の経過
経口避妊薬(Oral Contraceptives,OC)の歴史は、1960年代の初め、ENOVID10がOCとしてアメリカFDAにより初めて認可を受けたことに始まります。
これによりOCが臨床的に使用可能となり、それ以降OC服用者が急激に増加しました。
しかしENOVID10は大量のステロイドを含有していたため、その副作用が次第に問題とされるようになってきました。
そこでステロイドの含有量を減量するための努力が精力的に行われた結果、現在使用されている低用量経口避妊薬(一般的に低用量ピル)の開発に成功しました。
低用量ピルは、まずアメリカで許可を受けた後、ヨーロッパ諸外国を中心に多くの国で次々と使用が許可され、ピルの登場を待ち望んでいた女性がその恩恵を受けることが出来るようになりました。
わが国では諸外国に比べかなり遅れはしましたが、1999年に使用が認可されるに至りました。
低用量ピルは避妊効果に優れていることはもちろん、従来より使用されてきた中・高用量ピルに比べて副作用の発現頻度が著しく軽減されております。


2.種類
a.ホルモンの配合パターンで分類すると図1のように、一相性、二相性、三相性の3種類が開発されましたが、現在は一相性と三相性のみが使用可能です。
このように各種類のOCがありますが、各薬剤により多少の特徴の差はあるものの、いずれの薬剤を選択しても避妊効果にほとんど差は認められません。



b.錠数から分類すると、21錠型と28錠型の2つのタイプがあります。
図2に各々のピルの服用方法を示しました。
21錠タイプの薬剤は全てにホルモン剤が含有されており、服用終了後は7日間休薬します。
28錠タイプの薬剤は、1〜21日目までに服用する薬剤にはホルモン剤が含有されておりますが、残りの7錠の薬剤にはホルモン剤は入っておりません。


c.服用開始日から分類すると、月経開始日から服用するDay1ピルと、日曜日から服用開始するSundayピルの2種類があります。
欧米ではSundayピルが多用されていますが、これはキリスト教徒が毎日曜日に教会に礼拝に行く習慣があり、その日にOCを服用するよう推奨されたためであると考えられています。
一方日本では上記のような習慣はなく、Sundayピルを謳ったOCもDay1ピルとして用いられていることが多いように見受けられます。


3.服用方法
ピル服用の大原則は、21錠型、28錠型いずれも1日1回定時に必ず服用することです。
服用時刻に厳密な規定はありませんが、患者様によっては朝服用すると嘔気などの副作用が出現しやすいようです。
従って当院では、夕食後あるいは就寝前に服用することを習慣とするように勧めております。
このことにより、ピル投与第1周期目に多いとされる脱落例は当院ではほとんど認められません。
次に服用し忘れた場合についてですが、万一服用し忘れた場合は1日だけなら気づいたときにすぐ服用してください。又、その日の分はいつもの時間に服用します。
即ち、その日は2錠服用することになります。
2日以上服用し忘れた場合はピルを飲むのを中止してください。
この周期はピルによる避妊効果はありませんので、他の避妊方法に切り替える必要があります。
ピルを再開する場合は、次回月経開始日より再び服用を開始します。


4.ピルの持つ効果

確実な避妊
言うまでもなくピルの最大の効果です。

月経周期が規則正しくなる
ピル服用により、月経周期を規則正しくすることができるので、月経周期を自分でコントロールすることができます。

月経量が少なくなる
ピルを服用すると月経量が少なくなるため、二次的に貧血が改善されます。

月経前緊張症、月経困難症の症状が軽くなる
ピルの持つ最もポピュラーな効果として、月経前緊張症や月経困難症の症状が軽減することが知られています。

子宮内膜症が改善される
ピルが子宮内膜症の改善効果があることは以前より知られており、一部の医師により使用されておりました。
最近、低用量ピルタイプの経口剤が開発され、子宮内膜症治療の新しい1ページが開かれました。

骨盤内感染症が減少する
ピルには局所の感染抵抗力を増強させる効果があるため、骨盤内感染症が起こりにくいことが判っています。
しかし、クラミジアやヘルペスに代表されるSTD(性感染症)に対する防御効果は全くありませんので、STDの防止にはコンドームの装着が必要です。

皮膚に対する効果としてニキビに有効
ピルには皮膚に良い効果があります。
マーベロンはニキビ治療薬として使用されることもあります。

良性疾患に与える影響
卵巣嚢腫や子宮外妊娠の発生が減少する。
良性乳房腫瘍が減少する。

ガンに対する影響
子宮体ガンの発生が減少する。
卵巣ガンの発生が減少する。
子宮頸ガンに対してはごくわずか増加する(1000人に1人)という報告や、発生率に差はないという全く反対の報告も見られます。


5.副作用
OCを服用することで多く見られる副作用としては、嘔吐、頭痛、乳房緊慢感などが代表的なもので、これらはOC服用第1周期目に最も多く出現しますが、服用を継続していればに徐々に軽減してきます。


6.Q&A

Q1、OC服用中止後の妊娠・出産や赤ちゃんへの影響は?
A1:OCを飲み続けていても、薬の成分が体内に蓄積されることはなく、次回の妊娠に影響はありません。
海外の調査結果によると、OC服用者と非服用者の間に不妊率の差はなく、又、先天異常児の発生にも差はありませんでした。

Q2、ピルを服用すると太るのでは?
A2:日本で行われた低用量ピルの臨床試験の結果、体重変動はほとんどの人で±2kg以内の範囲でした。
これはOC非服用者の体重変動と大差はありません。

Q3、長期に飲み続けていても大丈夫?
A3:例えば、20〜40歳まで飲み続けることも可能で、避妊の必要があれば服用期間に制限はありません。

Q4、喫煙者でもOC服用は可能ですか?
A4:喫煙者がOCを服用すると、心筋梗塞、脳卒中、肺塞栓症や静脈血栓症などの発生リスクが増加することが知られています。
35歳以上で1日15本以上タバコを吸う人はOC服用は禁忌となっております。

Q5、お酒を飲んでも大丈夫?
A5:お酒自体に特に問題はありません。
但し、泥酔によるOCの飲み忘れに注意してください。
又、嘔吐によりOCの成分が吐き出されてしまうと、効果が期待できないことがあります。

Q6、避妊以外のピルの効果は?
A6:先に述べたように、月経前緊張症や月経困難症の軽減、子宮内膜症の改善、あるいは卵巣嚢腫や子宮外妊娠の発生率の減少、それ以外に子宮体ガン、卵巣ガンの発生頻度の低下などがよく知られています。


7.ピルを飲んではいけない人
ピルの服用が禁忌となる方はたくさんおられますが、中でも重要度の高いものを以下に示しました。

・循環器系疾患のある方
・肝腎機能に異常のある方
・極度の肥満の方
・妊娠あるいは授乳中の方
・若年者


以上、ピルの概略について説明を加えました。
ピルは皆様方が想像されているよりは副作用が少なく、しかも避妊効果はもちろん、他にも身体にとって有益な効果がありますので安心して服用してください。





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